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2014年05月28日

ヒージャーの逆襲

     ヒージャーの逆襲



 沖縄の食文化の中で、山羊料理ほど特異なものはないだろう。
 大半のヤマトンチュのみならず、ウチナンチュまでも好き嫌いが
分かれる。この好き嫌いも、これがまた半端じゃない。
 たとえば山羊汁のニオイ。(何故カタカナかというと、嫌いな人は
”臭い”、好きな人は”匂い”と書くから) 嫌いな人は顔をそむけ、
好きな人は”猫にマタタビ”のように引き寄せられていく。


 山羊汁の好きな人が薦める言葉でよく訊くのは、
 「食わず嫌いだよ。ニオイがいやならフーチバー(よもぎ)を
入れたらイイさー!」
 でも嫌いな人はこのフーチバーのニオイがまた嫌!複雑に
ミックスされ、「余計、クサイ!」
 やはり嫌われる一番の理由はこのニオイだろう。ニオイの
あまりない山羊刺しだけは食べるという人はけっこういる。

 さて、ボクはと言うと・・・大好き!
 以前の仕事関係でも住宅新築祝いで”ヒージャー汁が出る”と
言えば、担当外でも、ヤンバルでも車を走らせていた。




 食生活の乏しい子供の頃、久米島では旧正月に合わせて
各家庭で”ショーグァチワーグヮー”(正月豚)を飼っていたので、
豚肉料理は年初めには口にすることができたが、山羊料理は
親戚などで家を新築した時位だった。
 今みたいに金を出せばいつでも山羊料理を食べられるなんて
ことはなく(たぶん山羊料理店はその頃もあったと思うが)、
お祝いの時はそれこそお腹をこわす位食べたなぁ。



 ところで昔は豚でも山羊でも家庭で殺し(ツブシ)食肉処理が
行われていた。子供たちも目の前で家畜がツブされていくのを
見るのだが・・。
 残酷なのは山羊だ。
 ”チーイリチャー”(山羊の血の料理)の為に、生きたまま縛り
付けられた山羊の首を包丁で刺し、滴り落ちる血は下の置いた
容器に最後の一滴まで搾り取られる。

 メーメーと啼く声が次第に消えていくのを初めて見た時はやはり
ショッキングだった。それも次第に”可哀そう”という感情より、
”命を頂く”ということを子供心に自然に身体で覚えていったのかも。
 だから親もその場面を見せることに抵抗はなかったように思う。
  まあ、今の子供の感覚ではそれこそ名前でもつけペット感覚で
育ててている山羊をなんで食べることができるの?だろう。
 はたしていい時代になったのかな?


 山羊食通には最近物足りないことがある。
 食品衛生法のせいで、いなかでも昔みたいに家庭でのいわゆる
密殺はできなくなった。特に厳しくなったのはここ十数年だろう。
それまで山羊料理店などでは内臓も入っていたのが、それが
入らなくなり肉身のみのオシャレな食べ物に変わってしまった。
 やはりなんか物足りない・・気がする。



 やはり十数年になろうか、この山羊料理の過渡期を象徴的に
示すシーンにボクは遭遇したことがある。
 仕事関係のゴルフコンペが南部のパームヒルズゴルフクラブで
あり、その帰り近くにある山羊料理店に十数名で入った。それこそ
”ヒージャー好き”にかけては誰にも負けないことを自称するメンバー
ばかりだ。

 山羊食通も満足するその店で、山羊刺し、内臓もフーチバーも
たっぷり入った山羊汁を食べ終えた時、そのニュースが店に据え
付けられているテレビから流れてきた。
 まずテロップで目にした文字は、


 『密殺の山羊料理で、食中毒!』

 ニュースはヤンバルで起こった食中毒事件を大々的に取り上げて
いた。普通ならそんなにまで大きく扱うこともないだろうが、家畜の
密殺はちょっとした社会問題になりかけていた時期なので、いわゆる
タイムリーな事件だったのだろう。
 その時のメンバーのリアクションは今でも忘れない。

 陽気なメンバーも、「えー!!」と言った後、次の言葉を探している。
まあ、いつもなら冗談で笑い飛ばすシーンも、店員が一緒にニュースを
見ていたので微妙な空気に。
 まあ、その店はきっと密殺ではなかったと思うが・・ハハ。

 フグじゃないけど、美味しい料理にはリスクがあるのかな。
 あの頃の山羊料理が懐かしい・・。
 



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