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2017年08月26日

月の砂漠

    月の砂漠




   テトラポットに波の音もなく静かな晩だ。
  遠く東の空、上弦の彩が徐々に膨らみを増すが
  夜明けまでまだ時間がある。
   僕は夕べからの酔いの残る身体、深く息を吸い
  込むと港内の冷んやりとしたコンクリートに背中
  から大の字を描いた。
   西の空妖しい満月、夢うつつの追憶―。


   「起きて、起きて・・・」微かな母の声。
  「ん~、どうしたの?」寝ぼけまなこの僕。
  「月だぞ、月!テレビを観に行くぞ!」
  兄の大きな声に一瞬で眼が覚めた。
  「そうだ!アポロだ!」
   柱時計は午前4時を回ったところ。
   テレビのない我が家、小学五年の僕は世紀の
  瞬間を近所のUさんちで目にすることになる。
 
   1969年7月16日、地球を飛び立ったアポロ
  11号は、アームストロング船長とオルドリン、
  コリンズ飛行士を乗せ、38万Kmを三日で月の
  周回軌道に到達した。さらに丸一日かけて人類初の
  月面への一歩にアームストロングが成功する。

   二家族が息を呑む中、四本足のテレビに着陸
  前後の想像と実写の映像が流れる。僕の頭の中
  にその区別はなく、さらに大好きな”宇宙家族
  ロビンソン”が重なる。
  〈よし、僕も大きくなったら月に行く!〉
 

  「月の砂漠をはるばると 旅のらくだがゆきました♪」
   ゆめを食べて生きていたあの頃。満月に向かって
  懐かしいフレーズを口ずさむと、ふと忘れかけていた
  甘酸っぱい味が・・・。



        


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