2017年08月21日
ああ、サラリーマン!!
その昔、植木等は「サラリーマンは気楽な稼業だね!」と唄った。
高度経済成長期、どの会社も右肩上がりに業績が伸びていた。
イイ会社、大きな会社に入り出世コースに乗れば、後は”年功序列”
と”終身雇用”が機能し、定年を迎える頃にはマイホームのローンも
ほとんど完済、高額の退職金と豊かな公的年金、企業年金でバラ色の
老後が保障されていた。
まさにエリートサラリーマンは高度経済成長の申し子だった。
ただそのような状況下は悪しき副産物も生み出していった。
時に家族を犠牲にしてでも、会社の為に馬車馬のようにモーレツに
働くことを美徳とする精神構造になっていく。”年功序列””終身雇用”
と並ぶ三本柱の”愛社精神”で、生活のすべて、生き甲斐まで、
仕事が中心になる。さらに個人の能力より上司へのヨイショやゴマすり
に長けた者が出世していくようになる。
バブル崩壊で不動産長者の泡が弾け、ITバブルも花火の如く宙に
消え、今やサラリーマンが歪んだ社会の格好のターゲットとなった。
政府の税金、年金政策・・叫びが聞こえてくる。
「サラリーマンは苦痛な稼業だ!!」
さらに今でも前述の副産物だけはカサブタの様に残る。
・・・とまあ、ここまでは一般論だ。ここで終わったんじゃ面白くも
何ともない。本題はここからだ。
さて、先程までの内容を少し続けてみよう。
実はサラリーマンの悲痛な叫びも”本土”もしくは”本土企業”での
ことで、こと”沖縄”に関してはあまり当てはまらない。なぜかと
言うと、元々沖縄には大きな会社もなければ、イイ会社の基準もない。
縁故関係や知人が社員の軸となる中小、零細企業がほとんどで、
企業文化というよりここでも相互扶助、ヨコ社会である。経営者以外は
肩書きが何であれ横一線だ。人事権もなければ、方針もほとんど
経営者のみで決める。
本土におけるサラリーマンは、前述したヨイショやゴマすりでタテ社会
を上りつめようと躍起になるが、沖縄ではそのようなことは起こらない。
分かりやすく、アフター5で比較してみたい。
ちなみに本土では、アフター5の居酒屋、スナック等は会社内での
意味をなさない会議より、より決議機能を持つ時間外会議である。
お酒が入り本音が出るので人事考査にも大いに役立つ。
(ただ上司の”ここからは無礼講だよ!”が効果を発揮するのも新入
社員だけで、だんだん本音が出にくくなる)
一方、沖縄ではまず同じ会社の人間がアフター5で集まること自体
まれである。その時でも模合(モアイ)の雰囲気とほとんど変わらない。
全部本音である。(あっ、これは勤務時間内でも変わらないか)
〈本土)
あるスナックの金曜日午後九時頃の風景。(分かりやすくするために、
ホステスさんの場面はカットする)
一部上場のA商事会社の面々がボックス席で盛り上がっている。
(会社はスーツの胸に燦然と輝く社章ですぐわかる。部長、課長、係長、
ヒラ社員二名の五名、B常務の派閥である)
さっきから何やら部長を中心に難しい話をしていたが、どうやら
重要な案件が決定したらしく面々の顔がほころんでいる。
ほろ酔い気分、口もなめらかになった処で、
「部長、そろそろ一曲どうですか?」
こう切り出したのは課長である。部長にまずカラオケを勧めるのは
課長の役目である。
「部長、お願いしますよ」
間髪いれず、少しだけくだけた口調で係長が続く。
”パチパチパチ!”
ヒラ社二名はニコニコと拍手で援護。4名の役割分担と息はぴったりだ。
「いや~オレは、唄は下手だから君たち唄いなさい!」
(”唄は”のところが強調される。もちろん自分で下手とは思っておらず、
ハードルをさげただけ)
部長の予定通りの辞退。これを合図に、
「え~!じゃ~・・・」
いかにも残念そうに係長がヒラ社員を指名した。
ヒラの二人が今流行りを歌い、係長、課長とそれぞれの年代の持ち歌を
順に唄った後、課長がマイクをもう一度部長に差し出し、
「部長、お願いします。今度は部長の番ですよ」
「しかたないなぁ。う~ん、何唄おうか」
「部長、ほらあの唄!裕次郎の”ア~カシアの~♪”というの」
係長の唄い出しで部長が”おお、そうだ”ひらめいたという顔で、
「はっは、”赤いハンカチ”か、キミー!」
「そうです、はい、それです!」
曲目をあえて部長に言わせるテクニックはニクイ!
「部長、お願いします!」課長の軽い押しに、
「わかった、わかった!」
もちろん部長は最初からこの唄を唄う予定だった。いや、唄いたくて
うずうずしていた。社内では”オンチ”でうわさの部長。十八番のこの唄
だけは何となく上手に聴こえるらしい。
「ア~カシアノ~花の下で~♪」
今日も渋い声、表情は裕次郎を彷彿させる。部長の唄がヤンヤの
喝さいのうちに終わった。満足げの部長に部下のヨイショが始まる。
それは肩書きによって違ってくる。
まずヒラ社員は、
「部長、さすがに上手いですね!」
次に係長が、
「いつ聴いても、部長の唄は心に沁みますね!」
課長の場合、
「あの低音とビブラートは、持って生まれた才能ですね!」
肩書きが上にいくに従って、褒め言葉が高度化し具体的になってくる。
「はっはっは、君たちもどんどん唄いなさい!」
すこぶるご機嫌の部長に、一同声をそろえて、
「はい!」
まあ、この流れはカラオケの場面で幾度と繰り返されてきたシーンだ。
今日も又、それぞれの出世が暗黙のうち約束された・・・と思ってる。
〈沖縄〉
あるスナックの金曜日午後10時頃の風景。(どうしてもホステスの
場面はカットできない)
地場ではそこそこの会社、(有)比嘉工務店の面々がめずらしく
一緒に飲んでいる。(私服だが、客はみんなシッチョールーだから
すぐわかる。部長、課長、係長、ヒラ社員の四名で、課長以外は
比嘉社長の親戚である。課長は部長の小、中、高校の同級生。ちなみに
もう一人声をかけたヒラ社員は模合で不参加)
全員一旦家に帰って夕飯を食べて、今集まったばかりだからほろ酔い
になるにはまだ時間がかかる。余計な話はなくすぐにカラオケが始まった。
「ネーサン、ミスチルの”しるし”かけて」
「じゃあ、ワンはチハルの”恋”やー」
声の順番はヒラ、係長である。二人ともカラオケが大好きだ。
課長は隣に座っている同じ字出身のホステスとのおしゃべりに夢中だ。
いきなり下ネタに入っている。部長・・・は、隅で黙って(笑って)飲み
ながら、彼らの唄に手をたたいている。
ヒラ、係長が5曲づつ唄った頃、やっとほろ酔いになり、部長にも声が
かかった。ヒラ社員が「部長、一曲どうですか?」ではなく、肩をポンポン
たたき、
「部長、元気ないですよ~!」
ここで部長も意を決して、
「マ~マ~、”二見情話”かけて!」
次の選曲をしていた係長が、
「あれ、部長も唄うの?」
ヒラも続く。
「めずらしいですね、部長が唄うの」
ママとのデゥエット”二見情話”は部長がひとりの時よく唄う十八番だった。
部長の唄が終わった。我ながら惚れ惚れするような唄に廻りもシーンと
なっている。が、終わっても拍手がない。民謡のきらいなヒラも係長も次
の選曲に夢中だ。そこでホステスの肩を抱いていた酔っ払いの課長が
やっと前を向き、
「アキラ~(部長の名前)は、はっきり言ってヘタだな、ウイ!」
係長とヒラが続く。
「部長は次から唄わないほうがいいですよ」
「じゃある、じゃある!」
今日も又、部下がオアイソ前に帰った後、(「先なりましょうねぇ!」と
言いながら別の店に行った。課長はボックスシートで寝ている)
カウンターでママと好きな民謡を唄う部長であった。
Posted by YUU at 14:02│Comments(0)
│エッセイ