2013年06月08日
ノラの親子 (2)
あれから3ヶ月が過ぎた。
あっという間、というのは人間の感覚か。猫時間でいえば、
人間の4倍の速さで歳をとるから(ちなみに1歳までは早くて
人間の18歳に相当)、約1年が過ぎたことになる。
あれ? ならもっと"あっという間"か。
ともあれ、あれから今日まで起こった出来事は不思議でも
何でもないのかも。
それにしても、あの後マミーにどういう運命が待ち受けようと、
家人との心温まるふれ合いの物語としてボクの心の中に残る・・
ハズだった。
まさかこういう展開になろうとは・・。
「あれ、違ってた!ガンじゃなく単に乳の腫れが繋がってた
だけみたい、ハハ!」
1週間ほど過ぎた後、マミーのお腹を触っていた家人が嬉し
そうにボクに話した。まあ、彼女のおっちょこちょいは今に
始まったことではないが・・。
何はともあれ、よかったよかった!と喜んだのもつかの間、
又々マミーのお腹が例のごとく大きくなった。エ~、と思ったが
同時に今回はよかったのかなとも・・。
その頃、ボクと家人に、ある疑惑が持ち上がっていた。
実は家人があの後、ボクにボソッと次のようなことを云った。
「チビちゃんの傷跡・・あれは車の事故とかじゃなく、
玄関ドアに挟まれたか、そうじゃなければ・・」
家人曰く、子猫の傷跡はスパッと切れているような状態だった
らしい、遠目でボクには確認できなかったが。そして言葉を
切った家人の云わんとしていることは、暗黙に分かった。
ただそれは、口にするにはあまりにも背筋が凍る内容だった。
ボクの頭の奥にある記憶中枢で甦る・・「酒鬼薔薇聖斗」
ところで我が家の近隣は静かな住宅街で、前面道路も奥に3,
4軒ある袋小路で、それこそ通る人は住民以外と云えば郵便配達か、
訳の分からない宗教団体のご婦人たち位だ。
住民同士も昼間はほとんど仕事に出掛けて留守にしており、時々
会っても挨拶を交わす程度のお付き合いだ。
子供の声はあまり聞かず、時々、夕方一番奥の住宅の3歳と
5歳位の男の子の兄弟が、おばあちゃんと一緒に遊んでいるのを
見るくらいだ。
少し淋しい気もするが、まあ、お互い干渉しないといえば、
現代的で、それはそれでいいかとも思う。
我が家の斜め向かいに一人暮らしのお婆さんがいる。
正月、盆など時々賑やかになるが、普段は慎ましく暮らしている、
といった感じだ。そしてこのお婆さんとはボクも最近やっと又、
挨拶を交わすようになった。というのも、一年前のある事件を
きっかけに挨拶すらしなくなっていたのだ。
事件はソラが我が家に来てしばらくして起こった。
ある日、お婆さんがめずらしく血相を変えてやってきて、応対に
でた家人にめいっぱいクレームを云って帰っていった。クレームは
概ね次の様な内容だ。
お婆さんの云うには、自分の敷地で猫のウンチを発見したらしい。
そして最近よく見る白と黒の二匹の猫のあとをつけたら、窓から
入っていくのを目撃したとの事。
我が家ではココロとソラがいつでも自由に出入りできるように窓を
少し開けているから、すぐに飼い猫とわかったのだろう。
お婆さんが帰ったあと、
家人は「ココロもソラも自分のトイレで用を足しているから、
きっと違うはずなのに」と不服そうにしていたが、ボクの
「猫が嫌いな人もいるから、ぶつける先がこっちになっただけだよ。
これからは気~つけないといけないね」の一言に、「確かに・・」
と納得したようだった。
それからしばらく窓を閉めていたが、やはり家の中だけでは飼えない
と、又、元通り開けることにした。やっぱり犬と違って猫は相当
ストレスを抱えてしまう。
ただそれ以後、お婆さんからのクレームはなくなった。
その代わり近所付き合いに微妙にミゾができたのは云うまでもない
ことだった。
マミーのお腹が元に戻った。
産まれたのだ。どこで?相変わらず分からない。
・・・祈るような気持ちで2週間を待った。マミーの行動、ココロと
ソラの行動を気にしながらも日常が淡々と過ぎていく。努めて近所の
人たちと挨拶を交わすようにした。もちろんお婆さんとも。
そして新たな事件が・・・起きた。
-つづく-
Posted by YUU at 19:52│Comments(0)
│エッセイ