2013年06月08日
ノラの親子 (1)
昨今、ペットブームと云われているほど、犬、猫などを飼う人が
増えてきた。ペットショップや動物病院はそれこそ不況知らずだ。
ただ、好き嫌いによりペットに対する考え方は人によって大きく
違う。当然、のら犬、のら猫の扱い方は難しい。
我が家でも、ペットと呼ぶのにも抵抗がある位、家族みたいな、
犬1匹、猫2匹がいる。
一番年長は、娘が小学校の頃にせがまれて飼い始めたダックス犬
のクリーム。命名もそこは小学生、シロとかクロと同じ毛色そのまま。
生まれて3か月ほどで我が家にきてすでに12年になる。
夜中にコソ泥に気付いて吠えたりと頼もしいトコもあるが、
どっちかといえば何にでもすぐ吠える感じだ。
今でこそ少なくなったが、ボクも飲んで夜中に帰ってきた時は
コソ泥の気持ちが何となくわかったなぁ。抜き足差し足・・”ワン!”
トイレ処理や動物病院などもっぱら世話は家人がしているせいか、
ボクは何度噛みつかれたか分らない。まあ、最初の教育が悪かった
のだろうが・・愛情のかけ方が違うので仕方ないか。
最近ではやはりもう老犬なのか、白内障?の目薬を点したりして
いる。いつまで家族でいられるか、今から覚悟しておかないといけ
ないね、と家人も話している。
そして黒猫のココロ(心)とメス猫のソラ(空)。
当然、犬、猫一緒に飼えるとは思わなかったから、こいつらは
予期せぬ養子縁組ってトコかな。どっちも家人が子猫で拾ってきた
のだけど、共通しているのは、連れて来た日は餌も食べず瀕死だった
こと、翌日にはケロッとして”もしかしてネコを被っていた?”
と思わせたこと。
ココロは浦島太郎のカメ状態だったのを、子供たちから救い
出してきたとか、ソラは職場のゴミ捨て場に捨てられて干から
びそうだったとか、家人は力説していたけど、多分あのままでも
たくましく生きていけたんじゃないかな、うん。
でもまあ、おかげで”賑やかで楽しい我が家”になったから
良かったけどね。
最近は外で遊んでいても夜には帰ってくる。寝る時はボクと
一番相性が合うココロがベッドに上がってきて腕枕を要求する。
朝5時にはソラに”お腹すいた!”(ミャーミャー!)と起こ
されるけど、生活改善の目標だった早起きに助かっている。
それにしても性格は三者三様、犬と猫がこれほど仲良く一緒に
住むことにはビックリだった。どうも人間と違い、自分に害を
及ぼすのでなければ、好き嫌いで相手を排除することはないようだ。
ところで近所にはのら猫もけっこういる。我が家にくるのは
いつも同じ親子だ。
さすがにココロとソラみたいに飼うわけにはいかず、
かといって追っ払うこともできず、ガレージに容器を置いて
エサだけをあげている。もちろん情が移るから名前などつけない。
母猫は年に何回か子供を産む。ノラだからしかたないがお腹を
休める間もない。
どこかにちゃんと寝ぐらはあるのだろう、大きかったお腹が
元に戻った後しばらくすると2,3匹の子猫たちを連れてくる。
それはエサをもらいにくるのだろうけど、お世話になっている
我が家に子猫たちを見せにきている感じだ。
そして子猫たちは決まって成長すると巣立つように顔を見せなく
なる。以前は一緒だった父猫ももう来なくなった。
家人はこの母猫のことを心配している。
病気になりやすいということもあってクリーム、ココロ、ソラは
去勢、避妊手術しているが、この母猫のように頻繁に子供を産んで
いると、子宮ガンになりやすいらしい。でもこれから避妊手術を
受けさせることはできない。それこそ冷たく追っ払った方が・・。
心配をよそに母猫のお腹がまた大きくなった。
家人もさすがに「やっぱり避妊手術を受けさせようかしら」と口に
した。そしてお腹が元に戻ると、母猫は長い便秘でも治ったように、
その日にはもうエサをもらいにきた。
それから三週間ほど経ち、普段ならもう子猫たちを連れて
きてもおかしくないのにと思っていたら・・。
「あれ、今度は1匹だけ?」
ガレージに車を止めた先で、しゃがんで母猫と相対している
家人に声をかけた。母猫の前には子猫が1匹だけ・・ん?様子が
おかしい。
「・・ダメみたい・・この子」
母猫はぐったりとなった我が子をもう一度口にくわえると、
家人の足元に置いた。それはいつものように子猫たちを紹介する
仕草だ。
”はい、ちゃんとご挨拶しなさい”
いつもと違うのは、おっかなビックリの子猫のリアクションが
ない。
「死んだってこと分らない・・みたい」
事故にでもあったのだろう、子猫の身体に傷痕がある。寝て
いるような顔は母猫とそっくりである。
母猫が目を離したスキに子猫の亡骸を庭の隅に埋めた。
しばらくして我が子がいなくなったことに気付いた母猫が、
家人の足元で訴えている、”あれ、うちの子は?”。
横になった母猫の、地面に這うようなお腹をいたわるように
さすっている家人。そこには動物のメス同士に相通ずる母性が
あった。そして乳首のところを見て、
「乾いているから、子猫は他にいないかも。乳が吸われないと
乳ガンになりやすいのよねぇ」
と云いながら、そのまま下っ腹に掌を移した。
顔が一瞬曇る。そして今度は少し指に力を入れた後、
「やっぱり、シコリがある。間違いない。たぶん・・そう長く
ないかも」
家人はそれまでに近所で飼われていた犬、猫の病気の末期症状
をよく知っている。気丈にふるまっていた家人の肩が少し震えて
いる。
そんな時たぶん動物共通だと思うが、オスはなすすべがない。
翌日、ケロッとエサを食べている母猫を見ながら、家人がこれまた
ケロッと、
「名前つけたよ」
「えっ!」
「うん、”マミー”にしたよ!」
顔をあげ、そのまま庭の隅に視線を移す。その時ばかりはボクも
家人の心の声が聞こえた。
”チビちゃん、待っててね・・”
-つづく-
Posted by YUU at 18:02│Comments(0)
│エッセイ