2014年04月18日
高生まれとユタ

学生の頃、当時付き合っていた彼女の弟と首里で2DKのアパートを
借りて住んでいた時の話。
彼とは住居費を節約できるとのことで何とはなしに一緒に住み始めた
のだが、お互い干渉しない同居生活は気楽で結構気に入っていた。
実際、学生で昼と夜がひっくり返ったような生活の僕に、仕事をして
規則正しい生活の彼とは殆ど顔を合わせることがなかった。
異変が起きたのは住み始めて数ヶ月経った頃。
その頃から彼は、僕が夜遅くまで帰らず一人で寝ている時に
限って、何かに取り憑かれたように夜中に目を覚ますようになった。
それほど神経質な性格ではない彼、最初気にすることはなかったが
頻繁に続くようになるとさすがに気味悪さを覚え始める。
僕は何か心当たりはないか聞いてみた。
しばらく考え込む彼・・”もしかしたら・・”と次のような事を。
このアパートの入り口ドアは道路正面から裏手に回りこむように
ある。すぐ傍にこんもりとした雑木林があり、その中に小さな御願所
がポツンとある。彼が言うには三週間ほど前の晩酔って帰った際、
そこに悪戯で小石を投げあてたらしい。
多分その事が原因だろうと、さっそくその場所に向かって二人で
手を合わせ頭を下げた。
その日を境に彼が夜中に起きることはなくなった。
だが頭からそのことも消えかけたある日、やはり彼が一人でいる時
新たなる異変は起きた。
シャワーを浴びている彼の胸に、墨で版を押したような丸い円が浮き
上がってきた。びっくりした彼はタオルで何度も擦るがどうしても落とせない。
みるみる彼の顔は青ざめていった。
ちょうどその時彼の姉(僕の彼女)がアパートに尋ねてきた。彼女が
目にしたのは濡れたバスタオルで身体を巻いて半開きの風呂場のドアに
もたれかかっている弟の姿。胸の異変は消えかかっていたが何とか確認
できた。
夜遅くに帰った僕は二人からその話を聞いた。
翌日連絡を受けた彼の兄弟たちがアパートに集まり、話し合った結果
ユタに診て貰うことになった。
「御願所の件は関係ないね」
ユタは一通り状況を聞き、何点か確認した上でこう切り出し、
「大きな理由はそのアパートにある」と続けた。
そして彼に向かって、
「あんたは自分では気づかないだろうが、高生まれ(霊感が強い)して
いるよ」
何でも首里のその一帯は戦時中激戦地で、たくさんの人が亡くなった
所、今も浮かばれない霊がたくさんさ迷っている。アパートはその上に
建てられたもので、
「あんたみたいな高生まれの人がいたら、それらがみんな寄ってくるよ」
そういえば同じアパートに住んでいても僕には何の異変も起きてない
なぁ。
「胸に出たのはグソー印(あの世の印)であんたの魂は久米島の門中
墓の所にいる。その魂があの世に行きかけている時はその印が出ていて、」
息を呑むよう空気が漂う中、ユタは淡々と続けた。
「でもそれをあんたのひいおばあが、まだ来てはならないと引き止めて
いる。その時は印も消えている時・・」
さらにユタは、
「あんた最近、車も買い換えたでしょう。何かおかしい事はない?」
と急に話題を変えた。それは僕にも思い当たる節がある。
彼は二週間前に三菱ギャランに買い換えている。鮮やかな黄色は
初めて見る色でとても安く買ったと自慢していた。そして先日何気ない
話の中で、”先週、アパートの近くを走っている時、フッと途中から
意識が途切れ、気がついたら安謝の火葬場の前を走っていた”。
「その車は事故車で、助手席には今も女性が乗っている。あんた
だったらもしかしたら髪の長いその女性が見えるはずだよ」
それからユタは一呼吸置くと結論めいたアドバイスをくれた。
「アパートは出た方がいい。車も買い換えたほうがいいけど、
出来なければ普天間宮あたりでお払いさせなさい」
僕らはその日はそれぞれ兄弟の家に泊まり、翌日大家さんに別の
理由をつけて引っ越した。彼は2,3日後に車も買い換えた。
あれから三十数年、どうやらその後彼に異変は起きてないようだ。
Posted by YUU at 08:04│Comments(0)
│エッセイ