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2014年05月13日

悪がきと母の愛情〈パート2〉

    悪がきと母の愛情〈パート2〉


 電話しましたよ、はい! いや~、いつまでたっても母に子ですね。
子供のように喜ぶ声に、たまには電話せにゃ!と思ったね、夕べは。


                 ◇

 
 「いいよ、今からでも。約束だから行って来なさい」
 遊びから帰った僕に母は当然のごとく言った。特に怒りもせず。
 ”えー!”言い訳は出来なかった。
 僕は急いでリヤカーに道具を積み家を飛び出した。もう西の空が茜色
に染まっている。


 小学校5年―。
 豚のエサである芋掘りは僕の仕事である。
 畑は芋の成長をずらして三箇所ある。よりによって今日は一番イヤ
な所だ。夕焼けを背に海岸沿いの農道を、リヤカーのタイヤをガタガタ
いわせながら引っ張ってゆく。
 道すがら後悔の念に駆られた。
 学校から帰るとカバンを放り投げて遊びに行ってしまった。今日は
芋掘りの日だと分かっていたが、ビー玉の誘惑につい負けてしまった。


 リヤカーをさらに草むらの小道に入れた。畑は山の麓にある。
 もう辺りが微かに見えるくらいになっていた。
 畑の手前に大きな古い墓がある。昼間はなんてことないのにさすがに
気味悪いので畑まで僕は足元だけを見た。











   悪がきと母の愛情〈パート2〉   




 僕は短距離走のように芋を掘り始めた。
 汗が飛び散り、夢中になって掘っているうちに身体の疲労が激しさを
増し、怖さは何処かへ吹っ飛んでいた。ガクガクする手足ももうはっきり
見えなくなった頃、何とか芋は袋いっぱいになった。


 家々から漏れる灯りが見えてきた。リヤカーの重みと疲れと空腹で
足取りが重たかったが、ほっとしたのかお腹が”グ~”と鳴いた。
 防波堤の切れた坂道の上に人影が見える。
 それが誰かはすぐに分かった。









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