〈懐かしの久茂地川沿いライブハウス「フォークメイツ」。ひげのマスター、
かっちょいい!弾いてるギターは、かのマーティンD-45!おお、ベースの
やせっぽちは若かりし吾輩ではないか!〉
もう三十数年前になるが、学生の頃、都がつく某大手ホテルでベルボーイ
のバイトをしたことがある。
当時沖縄は新婚旅行のメッカとして、宮崎からその地位が移行した
ばかりの時期。ホテルも秋のシーズンになると、今では信じられない光景
が見られた。それにしてもいい時代、いやいいバイトだったなぁ~。
―今日は大安翌日。
まだ入ったばかりでビックリしたが、何と本日の宿泊客は300組以上
全室ハネムーン!出勤するとまだお昼過ぎ、チェックイン前だというのに、
すでにフロント前から玄関にかけてのロビーはズラ~っと列ができている
ではないか。
おニューのスーツ姿が多いが、中には奥様が手にブーケをもち、つい
さっき披露宴を終えたばかりのような格好も。それにしてもチェックイン
時間を待ちきれないのか、ほとんどが腕を組み寄り添い、まだクーラーを
効かしたロビーの温度が間違いなく2℃は上昇している。
中には思わず”う~ん!”と唸ってしまうカップルもいるが、傾向として、
見かけイイオトコイイオンナ度合いは(んなのあるかどうか分からないが)、
大体バランスが取れている。世の中うまくできているもんだ。
ところで、ベルボーイの勤務規則によると、お客様からのチップはお断り
するのを原則とする。海外のホテルと違って日本では10%のサービス料
を宿泊料に加えているからだ。もちろん”原則”だから、当然例外が出て
くる。ただその例外も自己申告によってホテルの雑収入とする、ことに
なっているハズだ。
一般客と違って、ほとんどがお祝い袋に入れたチップを準備している。
もちろんその必要はないことも承知の上で。まあ、幸せのおすそ分けって
意味合いもあるだろうし、懐具合も気分も最高なのだから特に不思議でも
ない。だからベルボーイの行動パターンも口にしなくても大体決まる。
案内後退室するする時、チップを差し出されても一度はかならずお断り
する。当たり前のように二度目がある。まあ、だいたいは、これ以上お断り
したら、せっかくの幸せ気分を害するなぁとの表情から笑顔で、”ありがとう
ございます”と”どうぞお幸せに!”をセットにしてお受けする。
ベルボーイ控室に戻っても、ズボンのポケットが盛り上がっている先輩
社員にならってチップの話題には触れない。
そんなこんなで幸せのおすそ分けは、そのままベルボーイの雑収入に。
さて、ベルボーイの仕事に観光タクシーの手配がある。
まだまだレンタカーより貸切タクシー、ハイヤーが観光の主流だ。
夜10時頃になると、翌日の手配書を該当ルームに配るのだが、こんな
日はこれがまた刺激的な仕事になる。
ワンフロアで約十数枚の手配書をドアの下から差し入れるのだが、
文字通りラブホテルと化した廊下には、もうこの時間、スポーツ大会の
ようにあちこちから奇声(に聞こえる)が漏れてくる。
”え~! な、何じゃこりゃ!”
かくして天国か地獄か分からないような長い廊下を、血の気の旺盛な
若者は前かがみ、ぎこちなくスローモーションで前進する。
もしも誰かに出くわしたら、きっと…。
沖縄のホテル事情も外資系への経営移行等、様変わりした。又、乱立
気味から苦戦を強いられているホテルもあるようだ。
昔を知る一人として、”夢よもう一度”と祈らずにはいられない。